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【比較実験】植物性バターにレシチンは必要か?

これまで、幾度となくプラントバター(ヴィーガンバター)を作ってきた。

豆乳、アーモンドミルクにカシューミルク…とベースになるミルクを変えたり、
風味アップのために、アーモンドバターや粉末アーモンドを加えたり、
ココナッツオイルの代わりに、カカオバター(もちろん無香)を使ったり、
キサンタンガムやサイリウムハスクを試したり、
それから、脂質の調節など…多くのマイナーチェンジを繰り返してみた。自分でも物好きだな、と思う。

さんざん試してみたものの、良きと辿り着いた私の中の答え(レシピ)はインターネット上にあるいくつもの「Vegan butter」のレシピと大差ない。先人たちはそれ以上の研究をしてくれているのだろうから、まぁ、そんなもんだろうが。

結果、当ブログでは味や材料手に入れ易さ、使い勝手、簡単に作れるかなど、総合的に見て高得点の

の2つのレシピを公開している。特に前者は手軽に植物性バターを作ってみたい人には、ぴったりだと思う。

両レシピとも市販の無調整豆乳を味のベースの基本形としているが、ひと手間かけて自家製の濃厚ナッツミルクや発酵ナッツミルクを使えばこれもまた美味しいバターになる。

さて、前置きが長くなったが、本題に移る。前出「料理、お菓子・パン作りに最適!」を謳ったレシピでは乳化剤としてレシチンを添加している。正直、手軽に手に入れられる材料でもないし、添加物と聞くだけで嫌悪する人いるだろう。

実際のところレシチンを抜いても形にはなる。質感は少々変わるが、味自体はそう変わらない。用途を絞るのであれば、いらないのかもしれない。でもやはり、乳バターの代用として汎用性の高いプラントバターには不可欠である。と、言い切りたい。

レシチンの有無しかり、普段のレシピ研究については特に公開するためにやっているわけではないのだが、当該レシピ記事を書きながらふと「『レシチンの有無』は、これで一つの題材になりそうだな」と思いつきこの記事を書くことにした。ニッチ過ぎるトピックなのは承知の上。

そんな訳で、実験というほど大そうなものではないが、レシチンを入れたバターとそうでないもの比較写真を示し、思ったことを綴っていく。

比較したバター

ブロック状バターのレシチン有りと無しの2種類で行うつもりだったが、冷凍庫と冷蔵庫を覗いたところちょうど良い比較対象が見つかったのでリストに追加した。計4種。

左から:1~4(詳細は下記)

は冷凍庫に保存してあったものを前日に冷蔵庫に移動させた。
は今回の比較ために前日に作った。

4種のリストと詳細

No.1:レシチンありのブロックタイプ

料理、お菓子・パン作りに最適!植物性バター』のレシピ通り。
脂質は約75~76%。大豆レシチン使用。

ブロック状(スティック状)

No.2:レシチンなしのブロックタイプ

上記1 からレシチンを抜いたもの。レシチンが入ってないので、白い。

No.3:レシチンなし/粉末アーモンド入りのスプレッドタイプ

パンに塗る!ビーガンバター』粉末アーモンド入りのレシピ。脂質、約62%
アーモンドを入れ、豆乳の比率もあげて風味アップを狙ったレシピ。結果、脂質は低め。レシチンは入っていない。

塗るビーガンバター。パンと一緒に。
柔らかスプレッドタイプ。粉末アーモンド入り。

↑↑↑写真のバターは着色しているが、比較に使ったものは着色していない

No.4:スプレッドタイプの乳バター 

家に夫のパン用のバター(乳製品)があったので少々拝借した。容器に入った柔らかいタイプだが、植物油などの混ぜ物は入っていない。
久々に本物をじっくり見て、こんなに黄色かったのかと正直驚いた。比較的最近購入したもので、古くなって水分が飛んで黄色くなったということではなさそうだ。

オーストラリア産かと思ったらニュージーランド産だった…

100%プラントベースレシピを謳っているブログなので普段、動物性食材は登場しないが、いい比較なので今回は特別にリストに加えた。レシピ記事ではないし、構わないだろう。
余談だが…、夫は肉好き&ジャンクフード/ソフトドリンク好きで、私とは違った食生活をしている人間なのだ。

では、比較を始める。

切る

はスプレッドタイプのため、この比較はのみ。

冷蔵庫から出して10分後、包丁で半分に切った。室温18度。

<左>1.レシチンあり <右>2.レシチンなし

すでに、違いがよくわかる。
の方が明らかに滑らかでしなやかさもある。
はボロボロしていてココナッツオイルの特性が強く出ている。

このまま、トーストや温かいパンケーキに乗せるのであれば特に問題はないのだろう。

溶かしバター 30C/60C

■湯煎加熱で、溶かしバターに。各30g
各種30度に達した時点で写真を撮り、そのあとさらに60度まで加熱した。

 左から:1~4 / <上段>約30度 <下段>約60度

1:レシチンでしっかり乳化されているので乳バターのようには分離しない。
2:30度の時点で明らかに分離しているが、よく振った後に分離しかけ始めたドレッシングのようなクリーミーさがある。60度では分離のしかたが比較的、乳バターに近い。
3:30度の時点ではと非常によく似ていて、ふんわりとしたとろみがある。そこから温度が上がるにつれ、ザラザラとした粉末アーモンドの粒が目立ってくる。

溶かしバターを横から見る。温度は55~60度くらい。

もし60度のを使うのなら「ココナッツオイルと豆乳を混ぜて加熱すれば同じなのでは」と思うのだがどうだろうか?実際、アンザックビスケット* を作るときに、その手法を用いたことがある。

当然だが、澄ましプラントバター** =ほぼココナッツオイルなのでわざわざ ”澄ます” 必要はない。

*アンザックビスケット:オーストラリアとニュージーランドでは定番のオーツとココナッツが入ったクッキー。加熱したバターとシロップを粉類に混ぜ込んで作る。

**澄ましバター:溶かしバターの上澄み部分。沈んでいる固形分を取り除いて脂質のみにする。

クリーム状

■湯煎で温度を少し上げて、ミニ泡だて器を用いてクリーム状にした。各30g

<上段>左から1、2 <下段>左から3、4

1:マットな質感。
2:ツヤがある。ツヤ感で言えば乳バターに似ている。
3:質感(粘性?)が明らかに他とは違い、泡だて器ではピンと角を立てる事が出来ない。しかしながら、クリーミーであり粉末アーモンドのざらつきはさほど気にならない。

上手く扱えば(適切な温度調節の意)全てクリーム状にすることができる。

が、しかし…

気を付けたい落とし穴

上手くクリーム状にできたレシチンなしのプラントバターだが、温度変化にとても敏感だ。

室温が低ければ、しばらく置いておくと当然ながら硬くなっていく。そして、その状態でもう一度混ぜようとすると水分が出る。完全なる分離。

再び加熱して温度を見ながら、ひたすら混ぜればまたクリーム状にすることも可能ではあるのだが、扱いやすいとは到底言いがたい。

No.2のレシチンなしバター。分離。水分が出ている。

室温が高ければ、少しずつ油分が溶けはじめて分離する。
夏場、室温にあるココナッツオイルが溶けている又は非常に柔らかくなっているのを知っている人であれば、このレシチンなしのプラントバターがどうなるのか簡単に想像ができると思う。

ちなみに粉末アーモンド入りバターはなかなか優秀で、レシチンが入っていない且つ含有水分量が多いにも関わらず、のようには分離しない。おそらく、アーモンドが水分を抱き込んでいるのだろう。結果、扱いやすく焼き菓子やパン生地にと使い勝手がよい。

めん棒で薄くする

折り込み用バターシートが出来るかを見る。
はスプレッドタイプのため、この比較はのみ。

キューブを丸ごとベーキングペーパーに挟んで伸した。

冷蔵庫から出し、しばらく室温に置いてから麺棒で薄くした。各30g
(表面温度が15度になった時点で伸し開始)

<左>1.レシチンあり <右>2.レシチンなし

1:特に問題なく薄くできる。
2:感覚的には薄く伸したというよりも、押し潰して薄くしたという感じ。そして、分離が起こった。

水分が出ている。

1はきちんと形を整えれば折り込み用として使える。実際、このバターを使ってクロワッサンを焼いている。2も形を整えることは可能だが、折り込み用として使うには想像するにリスクが高すぎる。使ってみたら案外行けるという結末はあるのかもしれないが、今のところ試してみようという気は起きていない。

フライパンで加熱

■中火で加熱したフライパンが60度に達してから、バターを中央に置いた。
 そのまま中火で固形分が焦げるまで加熱を続けた。
各8g

左から:1~4

1:気泡が出ながらじんわりと溶けていく感じが乳バターに少し似ていると感じた。油跳ねは乳バターと比べても極端に少なかった。
2:とにかく加熱時の油跳ねが凄まじかった。まさに水と油。
※あまり何も考えずに作業を始めたので、想定外の事態にプチパニックに陥った。ガス台を拭いたりしてるうちに写真を撮り忘れたが、最終的な状態はと変わらなかった。
3:じんわり溶けて、その後アーモンドが焦げザラザラな状態。油跳ねは2よりだいぶましだが、乳バターよりはパチパチ跳ねる。水分量が多いので当然の結果であるが。

今回初めてをフライパンで熱してみて、とこんなに違うものかと新たに経験できてよかった。そして、もう二度としないと確信した。

正直なところ、私自身はプラントバターで炒めものやソテーをすることはめったになく普段はオリーブオイルやその他の油を使うことがほとんどだ。フライパンや鍋で直接加熱するのはベシャメルを作る時くらいだと思う。

バターはパスタやリゾット、ソースなどの仕上げに煽り入れるというような使い方が多いので、そのような使い方ならでもありなのかもしれない。

についてはレシピ記事内でも注意事項として記載している通り、レシチンの有無とは関係なく炒めものやソテーには向かない。

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最後に。

これらの結果から、記事のはじめに「乳バターの代用として汎用性の高いプラントバターには不可欠である。と、言い切りたい。」と書いた理由がわかってもらえたのではないか。

用途が明確で、レシチンは必要ないというのであれば、それはそれだ。否定してない。

でも、私はケーキもクッキーもクロワッサンも焼きたいし、バタークリームも作りたい。そして、お料理にも幅広く使いたい。だから、 レシチンは必要!

市販のプラントバター(ヴィーガンバター)買えば一番楽なのはわかっているが、私は自分で作りたいんだ!!

以上。

どこかで、誰かのお役に立てていれば、これ幸い。

最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
xoxo Lily