アーモンドミルクなどの植物性ミルク作りのレシピを始め、加熱調理をしないロービーガンレシピの下準備で、『ナッツを一晩水につける』というのを目にしたことがある方も多いと思います。
でも、なぜわざわざ一晩も水に浸けるのでしょうか?
「ナッツを柔らかくするためでしょ」 はい、それ正解です!
でもそれだけでは、ないんです。
この記事では、ナッツや種子を水に浸ける理由とその方法、浸水時間の目安などをお伝えしていきます。
ナッツや種子を水に浸ける理由。
大きく分けると『調理』『栄養』2つの側面からの理由があるので、分けて説明していきます。
調理面
●滑らかな食感を作る
プラントベース/ヴィーガンでは、ミルクだけでなくクリームやチーズなどの代替品もナッツを使用して作られることが多々あります。例えば、ナッツをクリーミーなペースト状にしたいとき、乾燥した固い状態のままミキサーやフードプロセッサーにかけても細かい粒子までは粉砕されにくく、ざらつきの残る仕上がりになってしまいます。滑らかな食感作りに浸水は欠かせません。
●フードプロセッサーなどの機器への負担を減少させる
上記に付随する内容ではありますが、ナッツや種子を浸水で柔らかくすることでフードプロセッサーなどにかける負担を減少させます。決して安価な機器ではないので、大事に扱って長く使いたいですよね。
●味を向上させる
アーモンドやクルミについている茶色い薄皮に含まれている渋み成分タンニン。オリーブオイル・お茶・赤ワイン・渋柿などにも含まれている成分です。これを読んでいる方の中には、クルミが渋くて苦手いう方もいるのではないでしょうか?
しかし、これらのナッツを水に浸けることに事により、タンニンが水に流れ出て強かった渋みがマイルドになります。渋みが減少することで、食材が本来持つ甘みもより感じられるようになります。
栄養面
水に浸けることにより、酵素阻害物質やフィチン酸などの反栄養素(anti-nutrients)と呼ばれる、栄養の吸収を阻害する物質を減少させることができます。これらの反栄養素は、ナッツや種子だけでなく、穀物や豆類にも含まれます。
●酵素阻害物質を減らし、酵素を活性化させる
その名の通り ”酵素の働きを阻害する” 酵素阻害物質。
普段、私たちが酵素の含まれた食品を食べると、その食品中の食物酵素が、体内にある消化酵素の働きを助けてくれます。その消化酵素の力で、食べた物を分解し、栄養素が腸から吸収されます。
しかし、生のナッツや種子を摂取してしまうと酵素阻害物質が酵素の働きを妨げるため、消化が上手く行えなくなり、吸収されるべき栄養素が減ってしまうのです。そのため、ナッツ・種子・穀物・豆類はこの物質を減少させてから摂取するべきだといわれています。
この物質は、これらの食品が植物として時期尚早に発芽するのを防止するために存在しています。
身近な存在である玄米を例に説明します。
乾燥している状態では酵素阻害物質が存在しているため、何の変化もありません。しかし、水に浸けることによって酵素阻害物質が水に流れ出し発芽の準備が整い、のちに発芽します。十分な水と光、気温などの発芽/生育に必要な条件が揃ったときに、この物質は役目を終えるということです。
このことからわかるように、ナッツや種子を水に浸けることによって酵素阻害物質を減らすことができるのです。
さらには、酵素阻害物質が減少することによって、ナッツや種子自身に含まれる酵素が活性化し始めます。
酵素阻害物質は、加熱することでも減少させることが可能ですが、同時に酵素も減らしてしまいます。
すでに加熱されているローストナッツや炒りごまでは酵素阻害物質を気にする必要はありません。
●フィチン酸を減らす
フィチン酸には、鉄・亜鉛・カルシウム・マグネシウムなどのミネラルの吸収を阻害する作用があるとされており、浸水することでフィチン酸を減少させることができます。
フィチン酸は、食材を発芽や発酵させることでも減少させることが可能です。よく考えれば、浸水は発芽や発酵の第一段階ですね。
※フィチン酸についての補足
上記の話だけだとフィチン酸はいかにも悪者のように思えてしまうので、補足します。フィチン酸にはがんの予防や腎臓結石の予防に役立つ可能性など有益な作用もあるとされています。
もし、あなたがお肉も食べバランスの取れた食事をしているのならば、フィチン酸摂取について気に病むことはないようです。むしろ有益な作用のほうが勝るともいわれています。ただ、ヴィーガンを含むベジタリアン、プラントベースダイエットを実践されている方は、前者よりも多くのフィチン酸を摂取していることが多いため、より多くのミネラル摂取を心がけるなど気に留めておいたほうが良いようです。
ナッツや種子を水に浸ける方法
正直なところ、水に浸けるだけなので『方法』というほどのことではありませんが、簡単に注意事項を2点記しておきます。
1.ある程度、余裕のある容器にたっぷりの水を入れる。
水を吸ったナッツ/種子は一回りほど大きくなります。水が足りなくて、ナッツが水面から顔を出してしまうことのないようにしましょう。
例えば上の写真だと、左から6・7番目のクルミとピーカンナッツはこの瓶での浸水はNG❌瓶が小さすぎます。(※一番右はココナッツですが、ココナッツは浸水の必要はありません。)
※酵素阻害物質には塩水、フィチン酸には酢水がそれぞれよいとも言われています。ナッツや種子では酵素阻害物質の値の方が高いようで、塩水に浸けるというレシピもよく見かけます。しかし、ただの水でも十分効果があるようなので、私はあえて塩も酢も入れておりません。
2.浸水後の水は必ず捨てて、きれいな水で軽くすすいでから水気を切る。
浸水後の水には、反栄養素が流れ出ています。この水を摂取してしまったら元も子もありませんね。水を捨てたら、きれいな水ですすいでから、水気を切ってください。
浸水時間について
浸水時間については、厳密なルールがあるわけではありません。
アーモンドやピスタチオように油分が比較的少なく硬いナッツは長めに、油分が多いクルミ、柔らかいカシューナッツは短めで良いとされています。各ナッツ/種子ごとに理想的だといわれる時間があるようですが、ここでは覚えやすいように『長時間』『中時間』『短時間』の3つに分けて、目安としました。
長時間(8~12時間/一晩)
- アーモンド
- ピスタチオ
- ヘーゼルナッツ
中時間(6~8時間)
- クルミ
- ピーカン
- ブラジルナッツ
- かぼちゃの種
- ひまわりの種
- ごま
短時間(2~4時間)
- カシューナッツ
- マカダミアナッツ
- 松の実
上記の浸水時間はあくまでざっくりとした目安です。もし仮に、長時間ナッツの浸水時間が2時間だったとしても浸けないよりかは多少の効果が期待できますし、12時間以上浸けたら問題があるというわけではありません。
私の現実は、大体いつもどのナッツも種子も一晩(8~12時間くらい)浸水しちゃいます。夜寝る前に水につけて朝使う。もしくは、朝に浸水を始めて夕方~夜に使うパターンです。一般的に短時間の浸水でよいとされているカシューナッツとマカダミアナッツですが、私は滑らか食感を求める場合が多いので時間を長めに取っています。
もし何らかの理由で浸水したナッツをすぐに使えなくなった場合は、一度浸水していた水を捨ててナッツをすすぎ、新たに水を入れ冷蔵庫で保管してください。その後も、少なくとも12時間毎には水を換え、数日以内には使ってくださいね。
上の写真は、浸水前後の写真です。わかりにくいものもあるかと思いますが、どれも大体一回り大きくなっています。かぼちゃの種とひまわりの種は写真ではわかりにくいですが、現物を横から見ると厚みが増しています。
例外のナッツ/種子
■麻の実ナッツ:ナッツと名がついていますが、麻の実(種子)から殻を取り除いたもの状態のものです。
フィチン酸が含まれていないとされており、小さく柔らかいため、水に浸ける必要はありません。
■チアシード
水に入れるとゲル化してぬめりが出ることから、浸水には向きません。非常に小さい粒であり、嚙み砕くことも難しいことから、消化をしやすくするためには粉末状を使う、もしくはスムージーなどに入れて粉砕されたものを摂取するのが良いようです。
■フラックスシード(亜麻仁)
チアシードほどではありませんが、こちらも水に入れるとゲル化してぬめりが出ることから浸水には向きません。小さい粒であり外皮がとても硬く、嚙み砕くことが難しいです。消化のためには粉末状を使うとよいでしょう。
■ピーナッツ
ピーナッツはマメ科の植物でありは、ナッツではありませんが、ここまで読んでいただけた方ならお分かりのように、豆にも反栄養素が含まれます。生のピーナッツは、浸水が必要とされる食材です。
時短の浸水方法
「時間がないけど早くナッツを柔らかくしたい」というときは、栄養面での利点は減りますが、お湯や熱湯に浸けると短い時間で柔らかくすることができます。そもそも加熱調理する料理用の食材であればこの方法での浸水でも良いかと思います。
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最後に…
これはあくまで個人的意見ですが、
あなたが特に持病などなく健康体なら、度を越えるような量のナッツや種子、未精製穀類を毎日のように摂取していない限りは、短期的にすぐにミネラル欠乏症や消化不良により体調不が悪くなるわけではないと思うのですよ。
私は動物性食材をほぼ摂取しない生活を送っていますが、いまだに生のナッツや種子をそのまま食べたり、サラダに混ぜたりしちゃいます。
一度、浸水し反栄養素を減らし酵素を活性化させた後に、再び乾燥させた『Activated Nuts』(直訳すると “活性化されたナッツ”)も買えはするのですが、まだまだ一般的ではありません。フードドライヤーも所有しているので、自宅で “活性化されたナッツ” を作ることも可能ですが、面倒くさがりがでてしまいます。気まぐれでやる程度笑
時短の浸水方法も使います。加熱によって失われる栄養素もあるようですが、気にしていません。ナッツだけ食べて生活しているわけではなく、生野菜や果物、発酵食品もたくさん食べていますもの🍏
素晴らしいいくつのものローフードレシピに出会って感動したこともありますが、それはそれで別の話。
長い目で見て無理なくプラントベースを続けるためにも、楽しく料理して、美味しく食べることのほうが、私には大切なので、ナッツや種子にも臨機応変に向き合っております。
皆様は、どうお考えですか?
栄養について気になる方は、さらに詳しく調べてみてはいかがでしょうか?
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
xoxo Lily
【参考】Do nuts and seeds have to be soaked before eating?
【参考】Lectins, Phytates and Enzyme Inhibitors; Anti-nutrients That are Best Avoided